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野生動物行動学

クマの行動圏・ホームレンジとは
GPS追跡が明かす移動距離と出没パターン

更新日:2026年5月 / カテゴリ:野生動物行動学

「クマが来た」という情報を聞いたとき、多くの人は「どこから来たのか」「どこまで移動するのか」を疑問に思います。野生動物の行動研究において、特定の個体が日常的に利用する空間の広さを「行動圏(ホームレンジ)」と呼びます。

GPS首輪によるテレメトリー調査の普及により、ツキノワグマのホームレンジの実態が詳しくわかってきました。本稿では、国内外の調査データをもとに、クマの移動範囲・オスとメスの違い・季節変化・地域差を解説し、対策への応用について考察します。

1. ホームレンジとは何か

ホームレンジとは、一定期間内に動物が移動・採食・繁殖などの活動のために利用する空間の範囲を指します。縄張り(テリトリー)とは異なり、他個体と重複することもあります。一般にkm²(平方キロメートル)で表され、動物の体サイズ・食性・生息地の質によって大きく変動します。

クマのホームレンジ研究は、VHFラジオテレメトリー法(電波発信器)から始まり、現在ではGPS首輪を用いた高精度追跡が主流になっています。近年の機器では1日96回(15分間隔)の位置データ取得も可能となり、個体の詳細な移動パターンが明らかになってきています。

2. ツキノワグマのホームレンジ:国内調査データ

国内各地で行われたツキノワグマのGPS追跡調査から、以下のようなデータが報告されています。

調査地域オス成獣(km²)メス成獣(km²)特記事項
栃木県・日光足尾山地256205山岳・森林地帯。食料豊富
東京都・奥多摩山地4623比較的狭い山域。行動圏も小さい傾向
長野県・北アルプス周辺9355標高変動が大きく季節移動が顕著
石川県・白山周辺12060環境省・石川県の共同調査データ

※ 各調査の研究機関・測定手法・調査期間によって値が異なります。参考値としてご利用ください。

データから明らかなのは、オスのホームレンジはメスより概ね2〜5倍広いこと、そして地域の地形・食料環境によって同一種でも大きな差があることです。食料が豊富で広大な森林地帯ではより広い範囲を使い、食料が乏しい環境では食料を求めてさらに移動距離が拡大する傾向があります。

3. オスとメスの違い:なぜオスのホームレンジが広いか

オスがより広い行動圏を持つ理由のひとつは繁殖戦略にあります。オスは交尾の機会を最大化するために複数のメスの行動圏を内包する広い範囲を移動します。これが繁殖期(5〜7月)になるとより顕著になり、メスを探して普段より長距離を移動する個体が観察されています。

メスは子育て中(春〜夏)に子グマを抱えた状態では行動圏が縮小します。安全な育児場所・子グマが登れる大木・外敵から身を隠せる地形など、子育てに適した環境を中心に比較的狭い範囲を利用する傾向があります。逆に、授乳期を終えた秋の過食期には行動圏が拡大する事例も報告されています。

4. 季節による行動圏の変化

季節・時期行動圏の変化出没パターンへの影響
春(3〜4月)冬眠明け拡大する傾向。空腹で広範囲を移動山菜・タケノコの採食で低山帯・里山に降りてくる
春〜夏(5〜6月)繁殖期オスが大幅に拡大。数十km移動も普段来ない地域に出没することがある
夏(7〜8月)比較的安定。食料のある場所を定期的に巡回登山道・高山帯への出没が増える
秋(9〜11月)過食期さらに拡大する個体も。食料を求めて行動農地・果樹園・里山への侵入が急増
初冬(11〜12月)冬眠場所を探して移動後に縮小冬眠直前まで里山周辺に残る個体もいる

5. ヒグマのホームレンジ:ツキノワグマとの比較

北海道のヒグマはツキノワグマより大型で、ホームレンジも一般的に大きい傾向があります。国内の調査データでは、道東のヒグマでオス成獣が500〜1000km²以上に達する事例も報告されており、北米のグリズリーでは1個体の年間移動距離が数百kmに達する事例も記録されています。

ヒグマのホームレンジが広いということは、知床や大雪山系など広大な自然環境が必要なことを示すと同時に、農業地帯と生息地が隣接する道東・道北地域では日常的に農地との境界が問題になることを意味します。

6. ホームレンジの知識を対策に活かす

クマのホームレンジを理解することは、対策の「範囲設計」に役立ちます。

広い行動圏への対応:エリア散布型の活用

クマが広い範囲を移動することを考えると、特定の農地・ゴミ置き場・キャンプサイトなど「来てほしくない場所」への事前の予防的対策が重要です。KUMANUKEは植物由来成分を用いたエリア散布型の忌避スプレーで、行動範囲が広いクマに対して、特定エリアへの接近を抑制する目的での使用を想定しています。

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